まだ見ぬ世界への扉
出発まで30分
私が8歳だったある土曜日の朝、父に肩を揺すられて目を覚ました。
「起きろ。30分後に出発するぞ」
寝ぼけ眼のままシリアルをかき込み、何も知らされないまま家を出た。向かったのはカリフォルニア州セントラルバレー。そこで父のバードウォッチング仲間と合流し、一日中野鳥を探して歩いた。
キジやスズメ、カモ。目に入るものすべてが新鮮で、私は夢中になっていた。ただ、その日の空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうだった。父は、8歳の私の集中力が少しずつ途切れ始めていることに気づいたのだろう。自分のカメラを差し出し、ごく簡単な使い方だけを教えてくれた。
私は近くにいた大きな黒い鳥にレンズを向けてみた。
すると、まるで映画のワンシーンのように、厚い雲の切れ間から光が差し込んだ。レンズ越しに見えたその鳥の真っ黒な羽の中には、緑や紫の輝きが潜んでいた。
私は混乱した。
どこにでもいる普通の黒い鳥だと思っていたのに、こんな色をずっと隠し持っていたなんて。幼い私には、それをカメラの力にしか思えなかった。まるでこの道具が、普段は見えない世界への扉であるかのように。
その瞬間、私は完全に魅了された。
バードウォッチャーの世界では、野鳥への情熱に火をつけた最初の一羽を「スパークバード」と呼ぶ。私にとってそれは、派手な珍鳥ではなかった。灰色の朝に出会った一羽のワタリガラスだった。
それから22年が過ぎた。
山の中でひとり
22年も野鳥を追い続けていると、野鳥の撮影は思い通りに進まないことを嫌というほど学ぶ。予想外の出来事は珍しくなく、むしろ当たり前だ。風ひとつで撮影計画が崩れることもある。
今でもよく思い出すのは、エクアドルの高地での出来事だ。狙っていたのは、ニジイロコバシハチドリという、まるで現実離れした姿をした小さなハチドリだった。
その朝の条件は完璧だった。澄んだ光が山肌を照らし、鳥たちのさえずりが響いていた。そしてついに目当ての鳥を見つけた。行動を観察し、どこに止まるかを予測し、構図を決めて待つ。
ひたすら待つ。
1時間ほどが過ぎた頃、ついにその鳥が理想の場所に舞い降りた。しかし撮影を始めて間もなく、一台の車が角を曲がって現れた。信じられなかった。何時間もかけて追い続け、ようやく訪れた瞬間だった。しかし鳥は驚いて飛び去り、残ったのはたった数枚の写真だけ。あれだけ長い時間を費やしたのに、楽しめたのはほんのわずかな時間だった。
それでも私は野鳥を追い続ける。
なぜだろうか。
それは、あの日カリフォルニアの曇り空の下で灯った情熱を、30歳になった今も追い続けられていること自体が特別な幸運だと感じているからだ。野鳥の写真は私を世界中へ連れて行ってくれ、自然が持つ最も純粋な姿を見せてくれた。そして、多くの人が気づかずに通り過ぎている世界への入口となってくれた。
いつしかその扉は、私の人生の目的になった。
写真を見た誰かが立ち止まり、「こんな世界があったのか」と感じてくれる。その瞬間こそが、私にとって何よりも大切なことだ。
行き止まりではなく、乗り越える壁
今では、世界各地を訪れ、野鳥たちの新たな姿を撮影し、その体験をより多くの人と共有できるようになった。山を登る日もあれば激しい雨に打たれる日もある。以前なら諦めていたような状況も、今は乗り越えるべき障害に変わった。それはとても自由な感覚だ。
その自由の一部は機材にも支えられている。私が使うOM SYSTEMの機材は小型軽量で、以前より長く、より遠くまで歩けるようになった。自然の中にいる時間が増えれば、それだけ特別な瞬間に出会う可能性も高くなる。
私が特に好きなのは、躍動感のある瞬間を捉える撮影だ。野鳥の魅力の多くは、一瞬で過ぎ去る行動の中にある。以前なら反応する前に終わっていた場面も、今では写真として残せるようになった。
かつては不可能だと思っていた瞬間を持ち帰れることに大きな喜びを感じているし、撮影に余裕が生まれるほど、写真だけでなくその場にいる野鳥そのものを、より深く味わえるようになった。
レンズを持てなくなるその日まで
私の目標はずっと変わらない。写真を通して驚きと感動を届けること。旅に出たいと思うきっかけをつくること。そして、多くの人が見過ごしている自然への関心を広げることだ。
私はレンズを持ち上げられなくなるその日まで、それを続けていくつもりだ。
次の世代にも、野鳥の写真を通じて世界を探検してほしい。
だから若い人たちに話すときは正直に伝える。何時間も頑張ったのに数枚しか撮れない日もある。思い通りにならず、腹が立つこともある。それでも気づけば夢中になっている。私自身がそうだったからだ。
子どもの頃、私は図鑑を何度もめくりながら身近な野鳥を観察していた。裏庭で身につけた技術は、やがてコスタリカの雲霧林でエメラルド色の長い尾をもつケツァールを探す旅へとつながった。
すべては身近な場所から始まる。
旅は、多くの人が一生見ることのない世界を見せてくれる。そして持ち帰った物語は、誰かの人生を少しだけ豊かにすることができる。それは本当に素晴らしい贈り物だ。
私にとっては、その先に安らぎがある。
冒険の最後の日には、次の冒険がすぐそこまで来ていることにわくわくする。そして今この瞬間にも、どこかで一人の子どもが何気ない黒い鳥にカメラを向けているかもしれない、と思う。その鳥が隠し持つ美しさに気づかないまま。
かつて父が私を導いてくれたように、私もまた誰かをこの世界へ導きたい。
野鳥の写真は、人生を驚くほど豊かにしてくれる。
少なくとも、私にとってはそうだった。
写真:Ben Knoot
原文:Ben Knoot
編集:Michael Bonocore
Profile
Ben Knoot
アメリカ
ベン・クヌートは8歳のとき、父親とバードウォッチング仲間に連れられてカリフォルニア州セントラルバレーを訪れたことをきっかけに野鳥の撮影を始めた。現在はOM SYSTEMアンバサダーとして活動しながら、自身が運営する「Experience Nature Tours」を通じて世界各地を巡り、自然の魅力を発信している。写真とガイド活動に共通するテーマは、「自然の美しさを伝え、人々にその感動を体験してもらうこと」。愛用機材はOM-1 Mark IIとM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO。