[ vol.02 ]
Extreme Adventure

誰も見たことのない、
海の中の光景と出会いに

水中写真家戸村 裕行

2026.09.09 記事追加

イソギンチャクがその名の通り巾着状になっているところにハナビラクマノミが踊っていた。
様々なモードがあるTG-7だが、私の場合、2つのカスタムモードにワイド、マクロ仕様を記憶させて使用している。(バリ島・トランベン)

思うように撮れなかったあの頃

魚たちが群れで動く姿は圧巻で心が躍る瞬間。TG-7とワイドコンバージョンレンズの組み合わせは、水中のワイドシーンを思い通りに撮影することができるのでお勧め。(バリ島・トランベン)

私は海なし県の埼玉で生まれ育ちました。子どもの頃から自然は好きでしたが、海が身近な存在だったわけではありません。23歳でダイビングを始めたのも、ふとした思いつきがきっかけでした。

ダイビングを始める人は、体験ダイビングをしてからライセンスを取得する人が多いのですが、私はいきなりライセンスを取ろうと、沖縄へ通うようになりました。最初の頃は、まだ水中の世界を楽しむ余裕なんてありませんでした。レギュレーターをくわえて海の中で呼吸することさえ、しばらくはストレスだったことを覚えています。

ギリ・メノ島の海底に設置された石像。現地でスノーケルをする際には必ず訪れるポイントで観光客にも大人気の場所だが、それが故にこの写真を撮影するのはとても苦労した。(ギリ・メノ島)

写真を撮り始めたのは、ライセンスを取って、伊豆など本土でも潜るようになってからです。コンパクトデジタルカメラで魚や水中景観を撮っていましたが、なぜ色が出ないんだろう、なぜ緑がかってしまうんだろうと、思うようにいかないことばかり。当時は今のようなYouTubeやSNSも普及しておらず、教えてくれる人もいなかったので、雑誌を参考にするなど、試行錯誤の連続でした。

ダイビングにはログブックといって、潜水後に、潜水した場所や時間、観察した生物などを記録する時間があります。そこで仲間に写真を見せたりするうちに、少しずつ写真がうまくなって、写真を使ってもらうことが多くなっていきました。

世界有数のサンゴ礁が広がるインドネシア

トランベンはマクロ生物の観察で有名なエリアだが、巨大なウミウチワを発見し、美しい姿を写真におさめることができた。ただ、水深や濁りもあり、実際はかなり暗いシチュエーションで撮影している。(バリ島・トランベン)

これまで訪れた海は、メキシコやモルディブ、フィリピン、インドネシア、南洋の島々など数えきれません。なかでも現在のライフワークになっているのはインドネシアです。

インドネシアを含む東南アジアの海は「コーラルトライアングル」と呼ばれ、世界でも有数のサンゴ礁生態系が広がっています。透明度は少し落ちますが、生物多様性の宝庫です。潜る場所が変われば景観も変わるし、生き物も変わる。島ごとに異なる表情を持っていて、何度通っても新しい発見があります。

海の中では、狙っていた生物とは全く違う出会いが突然訪れることも。例えばジンベエザメを撮影しに行ったら、イルカが一緒に付いてきてくれたこともありました。

スンバワ島のサーレ湾にはジンベエザメが居着いている。この時、合計4匹もの個体に出会うことができたのは幸運だった。インドネシアにはこのようにジンベエザメと出会える場所が多数ある。(スンバワ島・サーレ湾)

一方で、撮れなかったものも数え切れません。最初のころは潮の流れに逆らってでも、とにかく写真を撮るために、生物に近づこうとしていました。でも、水中で生物や魚に追いつこうなんて無理です。経験を重ねるうちに、魚や生物は追うものではなく待つものだと考えるようになりました。待っていた方が生物に対してのストレスも少ないし、生物の方から寄って来てくれることが多いように感じます。今となって考えると当たり前のことのように感じますが、生き物との対峙の仕方は、大きく変わってきたと思います。

水際の撮影で欠かせない存在

ウミウシをシャープに撮りたくて、背景にあった赤いカイメンをアクセントとして取り入れた。その場のイメージを超える写真が撮れたときはとても気持ちが良いものだ。(バリ島・アメッド)
TG-7を片手に浅瀬をスノーケリングしていたら綺麗なアオウミガメに出会った。ロンボク島に属し、フェリーで訪れることのできるギリのエリアは、ウミガメの保護にも積極的に取り組んでいる。(ギリ・トラワンガン島)

カメラはオリンパス時代から使い続けています。

水中での撮影は、とにかく荷物が多くて大変です。ダイビング器材に加え、水中用と陸上用のカメラやレンズ、旅の着替えなどを含めると、ものすごい量に。飛行機の預け荷物の制限は20〜23キロ程度の航空会社が多く、機材の軽さは非常に重要です。

その点、OM SYSTEMのカメラは圧倒的に小型軽量。特にコンパクトカメラのTGシリーズは小さくて頑丈で、なかなか壊れないし、水没の心配がない。ワイドコンバージョンレンズなどサードパーティのレンズも増えてきているので、これ1台あればなんでも撮れるのが魅力です。友人やガイド業などをしている多くのダイバーたちが使っていて、水際の撮影において欠かせない存在になっています。

レックダイビングとの出会い

USSリバティの船尾とダイバー。第二次世界大戦に関連する海底に眠る沈没船の撮影はライフワークのひとつ。ストロボは使わず、ホワイトバランスを調整して色味を出している(バリ島・トランベン)

もうひとつのライフワークは、沈没船や飛行機など海の底に眠る遺物の撮影です。2010年、ガイドさんに沖縄で最大級の沈没船、USSエモンズに連れて行ってもらったことがきっかけでした。今でこそ有名なエモンズですが、当時はまだ知る人ぞ知る場所でした。

実際に潜ってみると、戦争遺産が目の前にある生々しさに衝撃を受けました。それから世界各地を巡るようになり、これまでに撮影した艦船や飛行機の数は、150~200にのぼります。

沈没船は、魚礁などにする為に意図的に沈められたもの以外、基本的には悲しい歴史を背負ったもの。だからこそ、船体のディテールを丁寧に写すことを心がけています。そこに集まる魚たちや海の美しさも含めて表現できたらと考えています。そうした視点から写真を見てもらうことで、これまで知らなかった人たちが、歴史や海に興味を持つきっかけになるのではないかと思うからです。

誰も見たことのない光景を物語と共に

美しいギリ・メノ島の海岸線をポップアートのエフェクトを使ってより鮮やかに撮影した。今回の写真は全てインドネシアで撮影したもの。自然、文化、歴史と、とても魅力的で、私が一番訪れている国。(ギリ・メノ島)

これまではライフワークとして同じ場所へ何度も通うことが多かったのですが、今はアメリカ大陸方面、中南米など、まだ行ったことのない場所へ訪れてみたい気持ちが大きいです。

そこで誰も見たことのないような光景に出会ってみたい。
潮回りや月の満ち欠けなど、暦を考えながら何かを狙って撮ることも大切です。でも今は、ふらっと旅するように訪れて、「出会えたらラッキー」という感覚で撮ることが、すごく心地よく感じています。

沈没船を撮るなかで感じたのは、被写体の背景にある物語の大切さでした。
船には歴史があり、関わった人の人生がある。

水中の景観も、地域の文化や環境によって、良くも悪くも、ものすごく変わります。
人と海はどうつながっているのか。その物語まで伝えられる作品を、これから作っていきたいです。

写真:戸村裕行
文:安藤菜穂子

Profile

戸村 裕行

日本

1982年、埼玉県生まれ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻科卒業。世界中の海を巡りながら、サンゴ礁に住む小さな生き物から、ウミガメやサメ、アシカなどの大型海洋生物まで、さまざまな生物を水中景観と共に撮り続けている。2010年からは第二次世界大戦に起因する、海底に眠る艦船や航空機などの撮影を世界各地で続け、雑誌で連載。全国各地の平和記念館や博物館などで展覧会を行う。写真集に、海底の戦争遺産を写した『蒼海の碑銘』(2020年)、『続 蒼海の碑銘』(2022年)がある。​2024年より国立大学法人神戸大学大学院・海事科学研究科附属国際海事研究センターリサーチフェローに就任。執筆・講演などを多数行う。

使用カメラ

OM SYSTEM Tough TG-7