変わり続ける街でつかまえる、一瞬の光
ライブ撮影から始まった表現者の道
私が写真を始めたのは、高校生のときです。音楽が好きでライブハウスに入り浸るうちに、ステージの上で強烈なエネルギーを放つミュージシャンたちから影響を受け、「自分も何か表現したい」と思うようになりました。
でも音楽の才能は全くなかった(笑)。何かできることはないかと考えていた時に、「カメラなら持っているし、写真ならできるのでは」と、ステージを撮るようになったんです。
渋谷、新宿、高円寺など、ライブハウスは東京の街中にあったので、ライブ終わりの打ち上げにいく途中の道でもミュージシャンやお客さんを撮ったりしていました。
大学で写真部に入って活動するようになると、自然と街でストリートスナップを撮るように。私にとってライブハウスを撮るのもストリートを撮るのも、さほど変わりはありません。それから大学の部活だけでは物足りなくなり、中退して写真の専門学校へ入り直したんです。
駆け出しの時に掴んだチャンス
1994年、新宿で初めて開いた個展のタイトルは『肖像』でした。ストロボを使ったコントラストの高い、モノクロのポートレート写真でしたが、これが驚くほど評判が悪くて(笑)。
「このままでは駄目だ」と思い、翌年作った作品が「NIGHT CRAWLER-虚構の都市への彷徨」。ストロボをやめ、街の風景や夜の光を生かしたスナップを撮りました。専門学校の卒業制作展の選抜作品にも選ばれてすごく嬉しかったことを覚えています。
この作品が写真賞に入選すると、作品を気に入ってくれた映画雑誌の編集者が、アムステルダムで俳優を撮影する仕事の話を持ってきてくれました。これには驚きましたね。無事に仕事を終え、せっかくだからと滞在を延ばして撮影に出ると、アムスの街が刺激的ですごく面白かった。それが海外のさまざまな都市でスナップしたいと思うきっかけになったんです。
2作目で見つけた自分の写真表現
ニューヨーク、ロンドン、パリ、アムステルダム、香港など、さまざまな都市で撮影した、初写真集『ENTER THE MIRROR』を1997年に発表した後、写真家の橋口譲二さんの作品を見て興味を持ち、ベルリンを訪れました。
1990年の東西ドイツ統一から時間は経っていましたが、東ベルリンにはまだ社会主義時代の空気が色濃く残っていました。重厚な団地群や、どこか寂しげで不思議な街並み。西側から、地下鉄でわずか十分ほど移動しただけで、街の空気がまったく変わる。その体験は大きなカルチャーショックでした。それから東欧をテーマに、ポーランド、ハンガリー、チェコと巡り、まとめたのが2冊目の写真集『Winterlicht(冬の光)』です。
この頃から撮り方を変えて、コントラストの高いモノクロ写真から、柔らかな光や空気感を重視した写真になりました。写真学校で森山大道さんに学んでいたこともあり、影響を受けていた部分もあったかもしれませんが、本作から自分のスタイルが確立していったと思います。20代、30代は、試行錯誤を繰り返しながら、作風を少しずつ形にしていった時期でした。
革命的だったミラーレス一眼の登場
フィルム時代からOM-1やハーフサイズのPENシリーズを使っていましたが、作品制作のメイン機材として本格的に使うようになったのは、2009年に発売されたミラーレス一眼の初代PEN E-P1からです。
まず、好きだったPEN-Fのような、洗練されたデザインに惹かれました。「ラフモノクローム」という、自分の作風にあったアートフィルターがあったのもよかったですね。
そしてなにより、撮影しながらモノクロの完成イメージを確認できることに感動しました。目の前で見ているカラーの風景が、撮る前からモニター上でモノクロ写真へと変わる。これは当時、モノクロ写真を撮る人間にとって革命的なことだったんです。
いま使っているOM-3は、フラッグシップ機のOM-1と同じ高画質で、クラシカルな外観も好み。マイクロフォーサーズはカメラだけでなく、レンズも含めて小型軽量だから、何本持ち歩いても苦になりません。以来、OM SYSTEMはずっと僕のメインシステムであり続けています。
ストリートスナップは時代の記録
初めて海外を訪れたのは、1992年、学生時代に友人と訪れた上海でした。当時はまだ発展途上で、日本の戦後間もない頃を思わせるような空気が残っていた。でも、それからものすごい勢いで超高層ビルが林立し、リニアモーターカーが走る大都市へと変貌していったんです。
そういったはざまの時期に何度か訪れると、意識せずとも変化が写真に写ってきます。20年、30年と撮り続けているうちに、ストリートスナップは時代の記録でもあると感じるようになりました。
東京も同じです。当たり前だった風景が、再開発によって次々と姿を変えていく。渋谷も、新宿西口も、1か月、いや1週間行かないだけで、まったく違う風景になっている。ずっとそこにあると思っていた風景が、あっという間に失われてしまいます。
日々のストリートも、昨日と今日では光も天候も違うし、行き交う人々も違う。同じ瞬間は二度となくて。街は一種の舞台装置であり、劇場のような場所。シャッターチャンスは常に一度きりで、その日、その時しかない。だから終わりがないし、飽きないんでしょうね。これからも歩ける限り、撮り続けていくと思います。
写真:中藤毅彦
文:安藤菜穂子
Profile
中藤 毅彦
日本
1970年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部を中退し、東京ビジュアルアーツ写真学科に入学。都市のスナップショットをモノクロームで表現した作品を発表し続けている。国内の他、東欧、ロシア、キューバ、フランス、アメリカなど世界各地を取材し、写真展や写真集で発表。OM SYSTEM GALLERYでは、2022年「CHAOS SHIBUYA」、2025年「LA & SF THE SOUL OF THE WEST」を開催した。近年はアメリカの大都市や台湾での撮影に力を入れ、またファッションとストリートを融合した作品にも取り組んでいる。第29回東川賞特別作家賞、第24回林忠彦賞受賞。作家活動と共に、東京四谷三丁目にてギャラリー・ニエプスを運営している。